結婚式の三大音楽―本当にふさわしいのはどれか

秋は結婚式の一番多いシーズンだ。若い頃はこの季節になると気候よりも先にふところが涼しくなった。友人の結婚式に出るにも只は行けない。ちゃんと服装を決めてなにがしかの包みを持って参上するわけだから、たび重なると相当の物入りである。さすがに、熟年ともなるとそう頻繁に結婚式へ出ることが無くなった。今は私の息子が同じ苦労をしているようだ。

もっとも、雅楽をやる学生さんなどは結婚式で稼いでいる。式で付き物の雅楽の奏楽だ。最近はキリスト教式に人気があって、雅楽を使う神前結婚式は押され気味とのことだが、まだまだ結構良いアルバイトになっているはずだ。私も東京にいた頃、よく学生に頼まれて手伝った。合奏の稽古の休憩時間に「上野先生、明日お忙しいですか。」とすり寄って来る学生がいる。「上野先生」などと呼ばれる時はたいてい結婚式の手伝いの頼みだ。学生も助かり私にも小遣いが入るのだから、快く引き受けた。そして、当日は早めに式場へ行き、まず新郎新婦の幸せと式の成功を神前に祈ってからおごそかに奏楽したものだ。

結婚式で依頼される曲はやはり有名な「越天楽」が多い。雅楽の「越天楽」とメンデルスゾーンの「結婚行進曲」、それにワーグナーの「婚礼の合唱」は現代日本における三大ブライダル音楽だ。結婚式では必ずどれかが聴かれるはずである。しかし、この中には本当に結婚式にふさわしいかどうかわからない曲もあるのだ。

まず、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」は特に問題が無い。この曲はシェイクスピアの戯曲、「真夏の夜の夢」のためにメンデルスゾーンが作曲した劇中音楽の一つだ。もちろんメンデルスゾーンがシェイクスピアに頼まれたわけではない。この二人は二百年以上時代が違い、メンデルスゾーンは既に偉大な古典となっていた劇に曲をつけたのだ。この劇は妖精がたくさん出てきたり恋人同士が喧嘩をしたりする楽しい劇で、最後に三組の恋人が結ばれて結婚式を挙げる。その場面のために作曲されたのがこの「結婚行進曲」だから、まずはハッピーエンドのおめでたい曲だ。

ワーグナーの「婚礼の合唱」がちょっと問題だ。この曲はドイツの伝説をもとにした歌劇、「ローエングリン」の後半で演奏される。騎士ローエングリンが悪者をやっつけたあとエルザ姫と結婚する場面であり、舞台も大変華やかだ。ところが、その騎士ローエングリンは実は天上から派遣されていた若者で、婚礼の直後姫を残して天上へ帰ってしまうのだ。つまり、逆かぐや姫みたいなお話なのである。結局は悲恋に終わるわけで、よく考えてみるとあまり縁起が良い曲とは言えない。しかし、音楽自体が素晴らしいから人気があるのかも知れない。

では、雅楽の「越天楽」はどうなのだろう。実のところこの曲には、結婚式と結びつくいわれが全くない。古代のシルクロード地方の民謡だったが、唐の国で雅楽になり、さらに日本へ伝わったというものだ。結婚式で演奏されるのは、単に一番有名な雅楽だからだろう。しかし、千三百年以上も親しまれてきた息の長い名曲だ。永遠の愛を誓うカップルには最もふさわしい曲だと私は考えている。

(平成14年11月4日 富山新聞(第71回)掲載分より)

 

掲載後記

最近神前結婚式は、キリスト教式におされてやや少なくなっているそうです。とすると、雅楽のアルバイトの場もだんだんあぶなくなっていることになります。

もっとも聞いた話によると、神前結婚式という形式はそう古いものではなく、大正天皇か昭和天皇の結婚式が最初だそうです。それでは、それ以前の庶民の結婚式はどんなだったのでしょうか。落語でよく出てくる結婚の場面は、花婿花嫁が自分の長屋で尾頭付きを前に坐り、三々九度を交わしたところで大家さんが「高砂や」を謡ってめでたくお開きというものです。案外こんなところが実態だったのかもしれません。

神前結婚式ももっと工夫して雰囲気をつくれば、また人気を盛り返すと思います。それには雅楽が活躍することです。私がよく弟と組んで頼まれた時には、越天楽ばかりでなく、催馬楽「伊勢の海」とか調子、「嘉辰(かしん)」などをとりまぜて大分工夫して盛り上げました。出席者が感激しているのがわかることがあり、気分が良かったものです。

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